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建設テックの最前線!「Holostruction」で建設業界改革を目指す小柳建設株式会社

ICT化が遅れがちと言われる建設業界から、画期的な新技術が誕生しようとしています。MR(ミックスドリアリティ、複合現実)を使ったHMD(ヘッドマウントディスプレイ)で、3次元の設計図面を現実の空間に投影し、その中を歩いたり、上下左右から見たり、縮尺を変えたりと自由自在に確認できる「Holostruction(ホロストラクション)」です。

アプリケーションを開発しているのは、新潟にある社員300人ほどの小柳建設株式会社。なぜスーパーゼネコンでもなかなか手掛けにくい先端技術に挑戦しているのか、同社・代表取締役社長の小柳卓蔵氏に聞きました。

▲「ホロストラクション」は、小柳建設が建設業界のために開発した、マイクロソフトのヘッドマウントディスプレイ「HoloLens(ホロレンズ)」で稼働するアプリケーション。頭に装着することで、クラウド上の3Dホログラムデータが目の前に広がります。

水害が多い地域なのでデータをクラウド化することからICTを推進

―御社の名前で検索すると、浚渫(しゅんせつ)という言葉がよく出てきます。元々そういう分野が得意だったのでしょうか?

当社は創業以来73年、総合建設業として土木や建築、舗装の工事など多岐にわたる工事を行なってきました。新「潟」という言葉にあるように水辺が多く、水が汚くなっているのを見た先代の社長が「人が汚したものは人がきれいにしなければならない」と、河川や沼の土砂やヘドロを取る浚渫工事を本格的に始めました。それから約30年、今では新潟だけでなく皇居の堀や神田川といった都内の浚渫もご依頼いただいています。

― 会社をICT化されたのはいつごろでしょうか?

私が社長に就任した4年前からです。実はこの地域は水害が多く、社屋も過去50年間で3度、天井まで浸水しています。災害対応する会社が「浸水でサーバーが使えず仕事になりません」では済まされませんので、社内のデータをすべてインターネット上に保存するクラウド化で、どこでも仕事できる環境にと進めたのがICT化を始めました。10年前は1人だったSEも、今では若手を含め4~5人が活躍してくれています。

▲お話しいただいた代表取締役社長の小柳卓蔵氏。金融会社で法務管理などを経験後、小柳建設に入社、2014年に社長就任。熱意を感じるお話しぶりと、社員の方々との距離の近さが印象的でした。

― 建設業でICT化は難しそうですが?

私は前職が金融業界だったので、入社当時はアナログな仕事ぶりに驚きました。請求書や協力会社とのやりとりはファックス、連絡は電話というような。そんな状況を改革したかったのです。最初はアイデアを出しても、「建設業では無理です」「建設業の仕事はアナログでないと進みません」という言葉が社内からも同業他社からも聞こえてきました。しかし、ICT化すれば様々な業務をもっと効率化できるはずだと考えて進めました。

― 最初は業務効率化が目的だったのですか?

効率化して、とにかく社員を楽にしてあげたいという思いが強かったですね。建設会社は夏でも冬でも昼間は現場で仕事をし、夕方からは社内のパソコンの前で書類作りという形が基本ですけれども、何かもっと違う形があるはずだと試行錯誤しました。そうしてメールも非効率的なのでチャットをメインにして、今では私もほとんどパソコンを開かないですね、現場の人間もスマートフォンで人とのやりとりはできるし、書類の確認などもできます。場所に縛られないので効率的ですし、自由ですね。

― 社内のICT専門部署は「業務改善課」だと聞きました

もともとはITシステム課でした。ただ、それだとIT=パソコンと思っている社内を変えることができません。実際、「パソコンの使い方がわからない」と言って呼ばれ、日々の対応に追われてしまうような状況でした。そこで、ICTの専門家たちが業務を改善するために様々な部門に入っていき、本当の意味でITの技術を使えるようにと、今は業務改善課となっています。

▲ホロストラクションを紹介する業務改善課の柿本優衣さん

カナダのイベントでMR技術に出会う

― 「ホロストラクション」開発のきっかけは何ですか?

クラウド化する際、「Microsoft Azure(アジュール)」というサービスを選んだのですが、導入や運用でマイクロソフトのパートナー企業が定期的に弊社を訪問してくれています。その際に「建設業界を変えたい」という話をしていたら、「マイクロソフトが世界の最先端技術をパートナー企業にだけ発表するイベントが年に1回あるので、ぜひ一緒に見に行きませんか」と誘ってくださったんです。

カナダのトロントで行なわれたのですが、そのイベントで世界中の人を前に紹介されたのが「HoloLens(ホロレンズ)」というデバイスで、日本で最初の事例として日本航空の事例が紹介されました。ホロレンズを通して見ると、飛行機のエンジンが割れて内部構造が見える映像に驚きました。同時に頭の中で「これは建設業界にぴったりだ」と思いました。工事中の建設物をホログラムとして確認できれば、仕事が格段に楽になりますので。

▲ホロレンズが紹介された「Microsoft Worldwide Partner Conference 2016」(カナダ・トロント)

― 確かに3Dはわかりやすいですね

私はもともと建設業界ではなく、技術屋でもないので、2次元の図面を見ながら説明されても、どういうものができるのか本当の意味ではわかりません。業界的には、2Dの図面を頭の中で3D化できるべき、という風潮ですが、実際には皆が同じようにイメージできているわけではなく、イメージのズレから俗に言う「手戻り」が発生します。しかし、ホロレンズという、リアルな世界も見ながら、ホログラムとして建設物を確認でき、同じものを同じイメージで共有できるのであれば、作業の効率化が格段に上がるだろうと考えました。

頭の中で図面を3D化できない若手や非技術者でも、同じ話ができることにも価値があるはずです。さらに、今は建設業界と言えばアナログで3K(きつい、汚い、危険)なイメージで採用にも苦労しています。しかし、ホロレンズのような先端技術を使っているとわかれば、イメージが変わるかなとも思いました。そんな様々な思いが混じり合って、その日のうちにマイクロソフト側に「ホロレンズを使って開発をしたい」と伝えました。

▲ホロストラクションで見える映像イメージ。会議室に橋梁の3次元モデルが浮かび、同席している参加者だけでなく、遠隔地の参加者もアバターの形で視線(オレンジの線)まで認識できます。

― 展開が早いですね

それが2年前、2016年の7月です。日本に帰って来て、まずプロジェクトチームを組みました。研究開発部門があるわけではないので、「こんな最先端のものがあるので、開発に参加したい人は手を挙げて」と募集したところ、20人から30人位、全社員の1割ほどが集まってくれました。土木建築技術者、営業、事務と職種も年齢もいろいろで、皆で知恵を出し合いながら、仕様を固めていきました。

― どういうコンセプトだったのですか?

先端技術はとかくシステム部門やエンジニア主導で開発を進めてしまうと、見せかけは凄いが実際には使えないものになりがちです。そこで私たちが心掛けていたのは、本当に業務で使えるものにすることでした。それも、建設のすべてのシーンですべての人が使えるようにと考えました。コンセプトは、建設物の計画・設計・工事、その後のメンテナンスまで、すべてを一元管理でき、それを3次元のビジュアルとして見ることができるシステムです。3D映像というだけでなく、工事の進捗に合わせて工事中の建設物の状況まで確認できる、時間軸まで捉えた4Dシステムです。この時間軸を採用したことで、計画段階のお客様から、工事する作業者まで、同じイメージを共有できます。

▲「タイムスライダー技術によって、現在・過去・未来の時間軸を自由に行き来することができ、確認したい工程段階の状態を3次元モデル上で再現できます」(業務改善課・吉田康さん)

― 現場の方が関わっているのが強いですね

開発に実際に現場で業務に携わっていた人間がこのプロジェクトに密接に関わっているので、最近ではVRやARの分野で近似のシステムがいくつか出てきていますが、ほかのものよりも現場に即したシステムになっていると思います。マイクロソフトにも「世界中で数多くの案件を見てきたけれど、ここまで現場向きのシステムは初めてです」と評価されています。

自社だけのものにならないようにも気をつけました。もともと建設業界を変えたいと始めたプロジェクトなので、広く多くの方に使ってもらいたいと考えています。そのためにも、さほど勉強や練習が必要なく使えることを目指し、基本的に目線とジェスチャーだけで操作できるようになっています。

― 生産性向上は特にどの部分で期待できそうですか?

建設業界で生産性が上がらないのは、現場に行かないと何もできないとか、全員が集まって図面を見ながら打ち合わせしたいといった意識にあると思います。しかし「ホロストラクション」を使えば、その意識のまま、海外にいようが東京にいようが、リモートコミュニケーションで3次元モデルを見ながら打ち合わせができます。遠方からでもアバターで本当にそこに集まっているかのように話ができ、イメージを共有できます。打ち合わせ日時を決めて集まって、という時間とコストが削減できます。それから、進捗確認に施主様が毎回現場に行かなくとも、ホロストラクションで確認していただけます。

今後の開発に関して

―開発体制というのはどうなっているのでしょうか?

社内のプロジェクトチームは、当初の30人から、業務改善課を中心としたコアメンバーの7人に集約されました。そこで社内の要望をまとめたり、仕様や今後の計画を決め、ホロレンズに搭載するためのプログラミングなどはマイクロソフトが行なっています。

―現在の開発状況は?

現在、開発の精度を上げながら現場で実証実験中です。当社は公共事業が多いので、まずデータ量が少なくて済む土木工事から試しています。施主様は国や自治体ですが、反応はとても良いですね。毎回「こんなふうに見えるんだ」と喜んでいただいています。国土交通省が「i-Construction(アイコンストラクション)」という建設業界のICT化政策を提唱していて、その取り組みを後押しできるようなシステムですので、ご理解をいただいていると感じております。

―― 販売や公開などの目安は?

まだ市場化やマネタイズの段階ではないと考えています。シリコンバレーやヨーロッパなどへの海外視察も行ない、先端の知見を吸収しながら、もう少し質を高めます。というのも、開発は収益というより、まず人のため世のためにという思いから始めました。私はお金を投票用紙だと思っています。まずは自分たちで立候補に値するような誇れるものをつくる。社員たちが楽になる、お客様が喜ぶ、つまり人のため世のためになるものを先に追求して、それから世に問いたいと思います。

▲ヨーロッパ視察にて。IT国家のエストニア、フィンテックで有名なポーランドなど、4カ国を2週間かけて回ったそうです

― 今後、開発で加えたいのはどんな機能ですか?

最終形態としては、計画中に仕様を変更したとしたら、増工でいくらかかるといった提案金額まで出てくるという形にしたいですね。BIM(Building Information Modeling)やCIM(Construction Information Modeling)が日本でも普及していくかと思います。その管理の中でホロストラクションが少しでも役に立つことを目標としています。実現できれば建設業界が画期的に変わると考えています。

取材を終えて

「人のため世のため業界のため」に開発していると聞いたとき、体裁かと思ったのが正直なところでしたが、これまでの開発歴を聞いて印象が大きく変わりました。

工事に関わる全員が同じイメージを共有するための「ホロストラクション」だけではありません。5年以上開発し続けているという、災害時に各地の写真をリアルタイムで共有して移動や補修を安全に効率的に進めるシステム「All-sighte(オールサイト)」。お蔵入りしてしまったものの、社員を思い、書類を持って現場を回らなくて済むための「iPadによる工事検査システム」など、すべて現場で困っていることから開発が始まっています。

経営も順風満帆とはいかず、倒産の危機も乗り越えながら、それでも「人のため世のため」の開発を続けているのだそうです。それを聞いて、凄みを感じました。先端技術を使いながら、地に足が付いた経営を行なっている理由がわかった気がします。

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